食卓の放射能汚染から身を守るには

市民の防災ノート No.2

食卓の放射能汚染から身を守るには

ワード版はこちら→https://www.tekuteku.net/genpatu1.doc 柚木ミサトさんのブログ「1日1絵」http://www.mikanblog.com/から

1.あとには戻れない

2011年3月11日、東北地方を襲った大きな揺れと津波は、原子力安全神話をあっという間に崩壊させて、福島第一原発からは約1か月間で37万~63万テラベクレル(原子力安全・保安院、原子力安全委員会発表)という途方もない量の放射能が環境にまき散らされるという最悪の事故になりました。一度閉じ込めに失敗した放射性物質は、薄まりながらも世界中に広がっていきます。原発事故が怖いのは、一般の人にとっては「ただちに健康に被害がでない」ことです。事故から5~6年後に甲状腺がん、10年後から乳がん、白血病、そして骨のがん。ほかにも肺がん、肝臓がん、心臓病、気管支の病気、貧血、鼻血、呼吸器疾患、不妊、流産、はては体がだるい、無気力など放射能障害と認定される可能性が低いさまざまな不定愁訴まで、「病気のデパート」が時を経て現れてきます。 出典:チェルノブイリ救援・中部から

2.放射性ヨウ素から身を守る

原発事故から2ヶ月がたって、放射性ヨウ素の放出は一見とまっているように見えますが、まだまだ原発事故の収束が見えない現在、放射性ヨウ素を取り込まない対策は必要かと思います。チェルノブイリ原発事故のあと、ウクライナやベラルーシでは通常50万人にひとりといわれるたいへんめずらしい「小児性甲状腺がん」が多発しました。これは原発事故直後に体内に取り込んだ放射性ヨウ素が甲状腺に集まって数年後に発症したものと考えられています。甲状腺がんは手術後の生存率が高く、転移もしにくいがんということで軽く見る傾向がありますが、甲状腺がんを発症した子供たちが、その後「元気で、健康になんの問題もなく」育っていると考えるのは楽観的すぎます。 チェルノブイリ原発事故後の小児・思秋期甲状腺ガンの発症率 出典:チェルノブイリ医療支援ネットワーク http://www.cher9.to/jiko.html

3.一番守らなければならないのは胎児とお母さん

放射線被ばくで受ける健康への危険性が一番高いのは胎児です。そのことは、妊娠中のお母さんが病院でレントゲンを受けないように気をつけることからもわかるかと思います。妊娠3カ月のお母さんが被ばくすると、出生直前に同じ量の被ばくする場合の10倍から15倍リスクが高いといわれています。また胎児は自然放射能レベルの1ミリシーベルトを浴びても生まれてからの小児がんリスクが倍になるそうです。内部被ばくの場合、お母さんの体内に入った放射能は胎盤を通して胎児に移行するそうです。英国レスタ―大学の遺伝子学者アレック・ジェスター教授は「ネイチャー」誌にチェルノブイリ原発付近で生まれた子の遺伝子からは英国の子ども約2倍の遺伝子突然変異が見つかったと発表しています。突然変異は遺伝子情報に組み込まれ生まれてきた子だけでなく次世代に引き継がれていくことになります。

4.小さい子のいのちを守ること

細胞分裂の活発な時に被ばくをすると、誤った遺伝情報がどんどん複製されることになります。それがすなわち、若く生命活動の活発な子供ほど放射線感受性が高い、ということなのです。アメリカのJ・ゴフマン博士によると、放射線被ばくによる健康への危険性は、10歳の子供は30歳の大人に比べ約3倍、0歳児ですと約5倍の健康への危険性があるとされています。しかもこれは外部被ばくでの評価、母乳から放射性物質を取り込む恐れのある乳児や、より土壌に近い背の低い幼児は、大人と同じ線量の被ばくを受けるわけではありませんので健康への危険性はさらに高くなると考えられます。若い人から命を奪われるような世の中は絶対許されません。若い命を守るのは私たち大人の使命なのです。 出典:京都大学原子炉実験所 小出裕章氏

5.過小評価される内部被ばくの脅威

東北大学・瀬木三雄医師による統計を、米ピッツバーグ医科大・アーネスト・スターングラス博士がグラフ化した表 放射性ヨウ素の数値が低くなるにつれ、被災地近郊を除き、外部被ばくのリスクは少しずつ減っています。年間20ミリシーベルトまでは安全とか、低線量ならかえって健康にいいなどの乱暴な意見もありますが、じつはこれはICRP(国際放射線防護委員会)の基準をもとにしての発言です。ICRPの基準では広島・長崎以降世界で放射線被ばくにより命を失われた人の数は117万人と試算しています。ところが同じ試算がECRR(欧州放射線リスク委員会)の試算では少なくとも6500万人の人たちが命を落としているとされています。両者の違いは「内部被ばく」を勘定に入れるかどうかです。原爆実験のあと、日本の子どもたちの小児がん死亡率が急激に上がっています。これを放射線の内部被ばくの影響と考えるかどうかが、ICRPの試算とECRRの試算の違いになって表れています。

6.乳がんが増えたのは放射能内部被ばくの影響か

1950年からの40年間でアメリカの白人女性の乳がん死亡率が約2倍になりました。その原因を究明するうちに、統計学者J・M・グールドは原子炉からの距離に相関して乳がん死亡率が増えていることを突き止めました。すなわち原子炉から160km以内の郡では乳がん死亡者が増加し、160kmを超える地域では乳がん死亡者が横ばいという顕著な統計的差異がみつかりました。乳がん死亡者の地域差を左右していたのは軍用・民間の原子炉から日々放出される微量の放射性物質だったのです。ひるがえって考えると日本では北海道の一部と沖縄・奄美地方を除きすべての地域が原発から160km以内にすっぽり入ってしまいます。私たちの周辺でも原発から日常的に漏れる低線量の放射能の影響を受けている人がいるかもしれません。 出典:「内部被ばくの脅威」肥田舜太郎/鎌仲ひとみ著 ちくま書房

7.内部被ばくって何?

内部被ばくとは、空気中のちりや、雨で降り積もった放射能が埃で舞い上がったり、水道水や食べ物、傷口から身体の内部に取り込まれる放射能被ばくのことです。放射線は距離が離れるごとに倍々でその威力が弱まります。逆に体内に入った放射性物質はミクロン単位で細胞にくっつき放射線を長期にわたって放出します。体内に入ったプルトニウムは肺に沈着して強烈なアルファ線やベータ線を放出して肺がんを引き起こします。また、コバルトやセリウムは血液から肝臓に沈着して肝臓がんを、セシウムは生殖器にたまって不妊や流産を引き起こし、ストロンチウムやジルコニウムは血液や骨にたまり白血病や骨肉腫を誘発します。これらはすべて低線量(ごくわずか)でもリスクがあり、10年20年と長い年月をかけて身体をむしばんでいきます。 出典:「内部被ばくの脅威」肥田舜太郎/鎌仲ひとみ著 ちくま書房

8.環境に放出された放射性物質の経路

原子力発電所から環境に放出された放射性物質はちりとなって空気を漂い、雨と一緒に地上に降り注ぎます。海に流れた放射性物質も一部は水蒸気と一緒に雲になり雨となって地上に戻ってきます。葉物に沈着た放射性物質はそのまま食卓にあがるほか、一部は加工品となって市場に出まわることになります。牧草に降り注いだ放射性物質は牛が食べ牛乳やチーズやヨーグルトになり、一部はお菓子やパンの材料となります。地上に降り注いだ放射能は野菜や果物、穀物、きのこや山菜に吸収されます。また一部は地下水に流れ込み河川の水とともに水道から私たちの口に入ります。海では海藻から、またプランクトンやそれをエサとする魚に濃縮されて私たちの食卓に上ります。環境に放出された放射能は様々な食品に形を変え私たちの食卓にあがってきます。 出典:「家庭で語る食卓の放射能汚染」安斉育郎著 同時代社

9.食べ物に気をつけることの大切さ

チェルノブイリ原発事故の翌年、ドイツのハンブルクで事故後の食生活が人体の放射能値にどんな影響があったか調査されました。チェルノブイリ原発事故のあと、食生活に気を使い汚染度の高いものを避けた人と、食生活に気を使わなかった人の汚染度の差が歴然としていることがわかります。それだけに適切な対応がいかに大事かということがわかります。ところが現在日本政府は十分な食品検査をおこなっているとは考えられません。できるだけ正しい放射能値を知ること、そして放射能値の高い食品は避けること。放射能による内部被ばくのリスクは取り込んだ放射能の値にほぼ比例すると考えられています。すでにはじまってしまったこと、引き算はできませんので、できる限り足し算の値を増やしていかないようにすることが身を守る第一歩です。 出典:「新装版 食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館

10.水の汚染と対策

3月23日、東京都葛飾区の金町浄水場の水道水で、210ベクレルの放射性ヨウ素131が検出されました。乳児の基準100ベクレルを超えているとしていて、乳児については飲用を控えるよう求め、東京は一時店頭からペットボトルの水が消えるという事態になりました。雨によって地上に降り注いだ水は川から浄水場に集まり水道から出てきます。ヨウ素がほとんど消えた今東京の水はすでに汚染を免れているように思われていますが、まだ微量の放射性物質(おもにセシウム134とセシウム137)が混入しているはずです。放射能はまっさきに水道水に出てきます。風呂やトイレの水と別に、これからも飲料水はペットボトルの水や深井戸の地下水、湧水などを飲んだほうがリスクは減ります。また最近の研究では、浄水器や炭なども有効であることが調査で明らかになっています。 出典:東京都水道局

11.ほうれん草やほかの葉物はもう安心なのか?

福島原発の事故の後15日あたりから北茨城市のほうれん草24000ベクレル、日立市ほうれん草354100ベクレルといったとんでもない値の放射能が検出されました。高い値の放射能のほとんどがヨウ素だったため、2カ月以上が経過した現在は、ほとんど無視できる数量になってきました。それに伴い暫定基準値より下がったほうれん草やその他の低レベルに汚染された野菜が市場に出回り始めました。しかしまだまだセシウムの値は高いので、福島や茨城の野菜を食卓にあげることは慎重になるべきでしょう。また、雨や風の影響で遠く離れた土地で思わぬ高汚染された野菜が見つかることもあります。可能なら検査を受け安全が確認できた野菜だけを食べられるといいのですが、それには現在国内にある食品検査器の台数はあまりにも少なすぎます。農家にはつらいことですが、どんな支援でも自分や家族の健康を犠牲にするべきではないと考えます。農家の生活を守るのは国や自治体であって消費者ができることは、国や東京電力の補償がしっかり進むよう後押しすることだと思います。 出典:「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館

12.果物の汚染

果物は、当初葉や果実の表面に沈降する放射性物質の汚染を受けます。この葉などからの汚染は時間とともに足早に減っていきますが、しばらくすると土壌からの吸収による汚染が始まります。放射能は根や幹にたまらずに成長が著しい葉先や果実にたまります。秋の果物で言えばちょうど収穫期にピークを迎える可能性があります。そしてまた数年にわたって土壌からの汚染は続きます。果物の汚染を最小限に抑える方法は、放射能が土に浸透する前に表土を取り除くのが最良です。なお、野菜や果物はたい肥にも放射能は集まりやすいので有機農業の畑では、栄養としてのたい肥にも十分配慮しなければいけません。 出典:「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館

13.放射能がたまりやすい野菜、たまりにくい野菜

野菜の中には放射能をためやすい野菜とためにくい野菜があることがわかってきています。チェルノブイリ近郊では作っていない作物もありますが、同じタイプの野菜に当てはめれば、日本の野菜もおおよそ判断がつきます。セシウムの場合、ほうれん草などの葉物、キャベツ、白菜、大根、かぶなどはセシウムをためやすく、トマト、なす、南瓜、きゅうりなどのなす科、ウリ科の野菜はためにくいことがわかります。お米と並んで日本に住む私たちの食生活に欠かせないマメ類は葉物野菜や大根などよりためにくく、トマト、きゅうりなどよりためやすいことがわかります。また、同じ野菜でも放射能をためやすいのは種子や葉先、ためにくいのは茎や果肉といわれています。ピーマンは種を取って食べる、小麦は精白して食べるなどの工夫が必要です。表面についた放射能は洗えば減りますが、内部に吸収された放射能は洗っても減りません。また、茹でたり煮たりしても、放射能を減らすことに関してはあまり期待できないようです。 出典:チェルノブイリ救援・中部

14.まだまだ続く牛乳の放射能汚染

牛乳は初期から汚染の影響を受けやすい食品です。牛は牧草のみならず多量の水を飲み土も食べます。放射能値はいったん下がって、また上がってくる傾向にあります。牧草は根からの吸収もありますので数年の間牛乳の汚染は続きます。福島県の酪農家が3月19日に生産した加工前の牛乳から、キロあたり5200ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたほか、飯舘村では420ベクレルの同セシウムも検出されました。その後、福島県は4月8日から、原乳の個別測定をやめて、県内他市町村の原乳と混ぜて測定するように変更しました。これはチェルノブイリ事故後ヨーロッパでもおこなわれた方法です。高濃度に汚染された食品を低濃度のものと混ぜて出荷するやりかたは健康被害を広くばらまく重大な問題です。 出典:「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館

15.もうひとつ、乳製品の話

1957年10月10日、イギリスのウィンズケール(セラフィールド)1号炉で大規模な放射能漏れ事故がありました。この事故は汚染の範囲が狭かったため大きなニュースになりませんでしたが周囲は牧草地帯だったため牛乳に高濃度の汚染がみつかりました。日本の研究者の調査によると、ウシが食べた飼料の放射能のうち、ヨウ素やストロンチウムは約5%、セシウムでは10数~20%が牛乳に出てくるといわれます。また、一部は体内に吸収され牛肉の汚染となって現れます。ウシが一日に食べる牧草の量を15kg(残り15kgが配合飼料)と計算した場合、キロ当たり暫定基準値いっぱいの300ベクレルのセシウムに汚染された牧草を15kg食べたウシが30リットルの牛乳を出すとすると、最大30ベクレルのセシウムが牛乳に出てくることになります。なお、ウィンズケールの事故調査によって、牛乳のセシウムは脂肪とはあまり行動をともにしないため、脱脂粉乳やカゼインに放射能が移行するいっぽうバターには2%と、ほとんど放射能が移行しないことがわかっています。スキムミルクやチーズは要注意、バターなどは比較的安心できるようです。

16.お米の話

農水省は、水田からのイネのセシウム吸収係数を10%と見積もって、5000ベクレル以下の水田でのイネの作付けを認可しています。5000ベクレルを超えないところでは、米の作付けはおこなわれているようです。つまり、計画避難地域以外のほとんどの地域でたんぼが耕されています。イネは放射能を吸収しやすいとみられています。また、セシウムのほかストロンチウムやプルトニウムなども吸収すると考えれば、福島原発付近で、これから収穫されるお米はかなりあぶないと考えたほうがいいでしょう。なお、ヨーロッパの研究では、ストロンチウム90は、もみがらを取ると約半分になるそうです。また白米にすると60%なくなるそうです。日本での研究でも玄米を精白して白米にして、洗米するともみの状態に比べ、放射能値は1/3から1/5に減るとの報告があがっています。逆に言えばもみがらやぬかには高濃度のセシウムやストロンチウムが残る心配があります。お米は白米にして食べるほうが放射能のリスクは減るということです。ただし、主食であるお米はもっとも多量に摂取する食べ物です。主食である米の放射能値が、そのまま大きく体内に取り込む放射能値に直結することはいうまでもありません。 参考;公益財団法人 原子力環境整備・資金管理センター http://www.rwmc.or.jp/library/other/kankyo/

17.お茶、干ししいたけ、乾燥ハーブは汚染地帯でなくても要注意

お茶、干ししいたけ、乾燥ハーブはチェルノブイリ原発事故時にもっとも遠隔地での高濃度の汚染が検出された食品です。いずれも放射能を取り込みやすい性格のうえ、乾燥させると重量が減りますので放射能も濃縮されます。チェルノブイリ原発事故により、生活クラブ生協で共同購入していた無農薬栽培のわたらい茶から、セシウム等の放射能227ベクレルが検出され、これが当時の脱原発運動の大きな引き金になりました。また、チェルノブイリ事故の翌年2月6日に、トルコ産月桂樹葉、セージからも当時の輸入制限値370ベクレルを超える放射能が検出されました。成長が著しい山菜、よもぎ、たけのこ、きのこや、セシウムを吸収しやすいナッツ類(特にヘーゼルナッツ)、ドライフルーツ、いちごやブルーベリーも要注意です。もっともお茶はあまりそのまま食べませんし、乾燥ハーブをたくさん食べることもありませんので、お米や野菜ほど気にしなくていいという意見もあります。

 18.混ぜて薄めて加工して最後は途上国に輸出する

チェルノブイリ後のヨーロッパの報道によると、汚染された牛乳や肉などは廃棄されずに薄めて乳製品やソーセージになり市場に出回ったり、それが出来ないときは途上国に輸出されたりしたケースがかなりあったそうです。日本でもお米が不足すれば困りますので、ある県の北で高濃度に汚染された米がでてくれば、同じ県の南の汚染が少ない米と混ぜて、基準値以下にしてから売ろうとするかもしれません。せっかく丹精こめて農家が作ったお米を廃棄するには忍びがたい気持ちもわかりますが、食卓にあがったら健康への危険性を上げることになります。この4月にはすでに福島の原乳が混ぜて出荷されるようになっています。これは、乳製品や小麦粉、かまぼこ、ハンバーグ、脱脂粉乳、動物の飼料、野菜の肥料などでも同じようなことを考える人はきっとでてくるでしょう。半減期の長いセシウム137は、総量としてほとんど減らずに、薄まって形を変えて少しずつ私たちの食卓に忍び寄ってきます。 出典:チェルノブイリ救援・中部

19.魚の汚染は、生体濃縮に注意

福島原発3号機から高濃度の汚染水が海に漏れ出した問題で、海に流出した水の量は250トン、含まれる放射性物質の量は推定で20兆ベクレルにのぼることを明らかにしました。農薬やダイオキシン、化学物質の話にもよく出てきますが、放射能も食物連鎖によって、生体濃縮されていきます。その中で日本に住む私たちが一番気をつけなければならないのは、魚の汚染です。チェルノブイリ事故でもっとも高濃度に汚染されたのは、トナカイの肉と湖に住む魚でした。スウェーデンでは、パーチという湖にすむスズキ科の魚から、なんとチェルノブイリ原発事故の2年半後に最高82,000ベクレルもの汚染が出てきました。つまり、放射能に汚染されたプランクトンを食べる小魚を食べる大型の魚は、何百倍、何千倍と濃縮され、とんでもない値の汚染が出てくる場合があります。また、魚にはセシウムだけでなくルテニウム・ストロンチウム・プルトニウムなども蓄積している可能性もあります。もちろん、基準値を超えるような大きな値にならなくても、福島を中心とした東日本の広範囲で大型のマグロやカツオ、サバやヒラメなどを中心にかなりの汚染が今後出てくるものと考えられます。

20.水産物の放射能汚染

海に垂れ流された放射能は、一部は福島原発近郊の海底に沈降し、残りは潮の流れに乗ってゆっくり概要に外洋に広がっていきます。また、陸地に沈降した放射能も少しずつ河口付近に集まってきます。茨城・福島の海岸・河口付近では今後長期にわたって高濃度の汚染が続くものと思われます。またセシウムばかりでなくプルトニウム、アメリシウム、ストロンチウムなど他の核種の調査が必要です。沖に流れた放射能を含む水は特に福島、茨城、宮城の広範囲に広がっていくでしょう。魚のみならず昆布、ワカメ、カキ、ホヤ、ウニなども今後継続的な調査が必要になっていきます。また、ほかの県の漁船も三陸沖で漁をするでしょうから水揚げ港だけで安全かどうかの判断はできません、なお、内臓をよくとって、塩水につけてからその塩を水に出して、煮て食べることで放射能値は多少さがるといわれています。

21.人間の体内放射能汚染

出典:「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館 海での食物連鎖の頂点が魚なら、陸地での食物連鎖の頂点は人間です。チェルノブイリ事故後ヨーロッパの各地で測られた人体のセシウム濃度は少しずつですが着実に増えていきました。特に顕著なのはスウェーデンに住むサミ(ラップ)人の汚染です。地表に降り注いだセシウムがコケについて、トナカイがそのコケを食べ、そのトナカイの肉を食べ乳を飲むサミ人が高い濃度に汚染されていきました。日本でもそうですが、都会に住み洋風の食生活をする人よりも、田舎に住みその土地の恵みをいただいて、自然とともに暮らす人のほうが放射能の被害を受けやすくなっています。そして田舎で作られた電気のほとんどは都会に送られていくのです。

22.加工品の放射能汚染

チェルノブイリ原発事故以降、厚生労働省は日本に輸入される食品で1キログラム当たり370ベクレルを超える食品は輸入許可しないできました。この基準値は、食品にしめる輸入食品はそれほど高くないだろうということで、諸外国と比べてもたいへん甘い基準値ですが、今回福島の事故で食品をセシウムの暫定基準値500ベクレルという輸入食品の基準値をも大幅に上回る数値を出してきました。この基準値自体、健康に影響を及ぼす可能性が高い数値です。今後、野菜や水、乳製品に続いて、様々な加工品、調味料などに放射能は忍び込んでいきます。水や野菜や牛乳などで高濃度に汚染された原料も、食品の一部の原材料となってしまえば、基準を超える放射能値が出る食品はごく一部になってしまいます。ありとあらゆる食品に薄まって形を変えて入り込んでくる放射能から、私たちはどうやって身を守ればいいのでしょうか? 出典:「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子著 七つ森書館

23.私たちができる放射能食品汚染対策とは

最初のほうで述べたように、食卓の放射能汚染に敏感になることで、体内に取り込む放射能値を大きく減らすことが可能です。内部被ばくの場合、被ばくした分だけ比例して健康への危険性があがりますので、出来る限りの対策は取るべきだと考えます。普段から昆布やわかめを食べていれば放射性ヨウ素を取り込みにくいように、カリウムが足りていればセシウムの吸収が少なくなる、カルシウムが足りていれば放射性ストロンチウムの蓄積が多少抑えられるという話も聞きます。食品のうち可能なものは放射能値や産地などの情報を集め、危険性の高い食品は出来るだけ避けバランスよく食べることが、私たちが個人として最大限出来ることかもしれません。 参考;公益財団法人 原子力環境整備・資金管理センター

24.自分たちが使える放射能検知器を持つ

食品の放射能汚染からしっかり身を守るためには「自分たちが使える」放射能検知器を手に入れるのが最良の選択です。私たちが持っている放射能検知器は空間線量を測るのがやっとで食品の放射能値は測れません。公の機関や研究所などが持っているゲルマニウム検出器は数千万円するそうですが、簡易に食品の放射能を測定できる検知器は数百万円からあるそうです。チェルノブイリ事故の後、東京都中野区や神奈川県藤沢市、神戸市などでは市民が請願して、自治体に市民が使える検知器を購入してもらいました。自分たちでお金を出しあったり、カンパを募って検知器を所有したグループもあります。そうしたグループは検査結果を公表していますので、そのデータをこまめにチェックするのも大事なことかもしれません。

25.玄米や天然味噌、自然塩は放射能に有効か?

原爆投下後の長崎で爆心地1.4キロにある病院で従業員と入院患者が玄米と天然味噌、自然塩やわかめを食べて、全員が生き残ったという話から、玄米、天然味噌、自然塩が放射能から身を守るという話があります。体内に入った放射性物質は煮ても焼いてもアルカリで中和してもその毒性は変わりません。したがって玄米や味噌が放射能を無害にすることはありません。(放射能を無害にできるのは時間だけです。)ただし、半減期には物理的半減期のほか、体外に排出されて内部被ばく量が減るという生物的半減期というのもあり、この数値は人によってばらつきがあります。玄米や味噌のカリウムやカルシウム、さまざまなミネラルが体内のミネラルバランスを飽和させて、放射能の排出を促進したという可能性は否定できません。また、食べ物によって体内の免疫機能が促進され病気になりにくい体になったということも考えられます。いずれにしても放射能を取り込んでも玄米や天然味噌を食べていれば大丈夫だと考えると大間違いです。まず大事なのは放射性物質をできるだけ体内に取り込まないことです。 出典:「放射能汚染から命を守る最強の知恵」阿部一理・堀田忠弘著 コスモ21

26.放射能汚染の大いなる矛盾

体にいいとされる玄米ですが白米の数倍放射能を溜め込みます。だからといって日本中の人たちが比較的汚染が少ない西日本の米を買いあさったら、福島の人たちは地元の汚染されたお米を食べなければならなくなります。放射能は、有機農業のたい肥を汚染させ、牧草を中心にした畜産や平飼いの養鶏、露地栽培の野菜や、近海の伝統的な漁業を破壊していきます。国産の食品が汚染されているからと途上国から食糧を買いあされば、途上国の人たちは自分たちの食べるものが無くなり、日本からの汚染された食糧の援助が必要になります。この大いなる矛盾は、原子力発電所から生み出されている放射性物質がいかに、命と対極にあるものかを物語っています。先ほどの「玄米を食べて放射能に負けない丈夫な体になろう」という考え方も、一歩間違えると、もともと虚弱な人たちのことを忘れた強者の考え方になる危険性を持っています。弱い人から犠牲になる放射能汚染とは、私たちは絶対に共存できない存在なのです。

27.全ての原子力発電所を廃炉に

福島原発事故は、原子力発電所の安全が確立された技術ではないことを証明しました。事故が無くても日々生み出される放射性物質で乳がんなどが増加するもわかりました。日本中の原発から半径160kmの範囲には、北海道の一部と沖縄を除くほとんどの地域が収まってしまいます。地震の巣の上に立てられた日本の原発は砂上の楼閣ともいえる、たいへん危ないものです。これ以上、美しい海で生業を営んでいる人の生活を壊し、未来の子どもたちの命や健康を奪うのは、もうやめてください。 ただちに日本中の原子力発電所を廃炉に! 柚木ミサトさんのブログ「1日1絵」http://www.mikanblog.com/から

あとがき

2011年3月11日に東日本大震災がおこり、12日に福島第一原発の事故がおこった翌13日、私たちは長野県内の友人たちと緊急に集まりをもって、メーリングリストを立ち上げました。学習会や、署名をおこなったり様々な意見を交換する中で、ともすればひとり不安におののいたり、狭量になりがちな中を、何度も仲間に励まされ気付かされながら、3.11後の見通しのつかない暗闇を歩いてきました。 3.11以降、農薬・化学物質・遺伝子組換食品・ダイオキシンなどの健康への危険性にとてつもなく強力な要因となる猛毒・放射性物質が加わりました。 インターネットの世界には様々な情報があふれています。しかし、あまり多くの情報に何がほんとうに大切なのか隠れてしまったり、また逆にインターネットの世界から取り残されテレビの情報だけを信じてしまったりしがちです。 そんな中で、食の現場にいる身から、放射能から食卓を守るにはどうしたらいいか簡単な小冊子を作ってみたいと思うようになり、この小冊子が出来上がりました。 この小冊子には大事な視点がいくつか抜けています。すなわち今も現場で命がけで働いている労働者のこと(政府は造血幹細胞の採取保存を!)や、福島の学校での暫定基準値年20ミリシーベルトは子どもたちをモルモットにするつもりなのか!)とか、福島・茨城などの農家、漁業関係者などの生活を守る視点などのことです。 それらは、またほかの方にお願いすることでお許しください。 この小冊子は主に、今私が住んでいる長野県のイベントや学習会で配ってもらいたいと思い執筆しましたが、県内外に限らず勝手にコピーして配布してもらえたら嬉しいです。文章はオリジナルですので好きにコピーしてください。 できるだけ簡潔にわかりやすく書いたつもりですが、文章を書くことは苦手ゆえわかりにくい文等ありましたらお許し下さい。また、できるだけ憶測やあやふやな知識で書かずに、文献も可能な限り確認するようにしましたが、間違いや勘違いがありましたらご指摘願います。 出典文献:以下の三冊をもっとも参考にしました。 食卓にあがった放射能   高木仁三郎 渡辺美紀著 七つ森書館 家族で語る食卓の放射能汚染 安斎育郎著 同時代社 内部被ばくの脅威 肥田舜太郎 鎌仲ひとみ著 ちくま書房 文責 立田 (長野県飯田市) 2011/05/22 この小冊子は無料です。もしお気持ちがありましたらカンパは頂戴いたします。いただいたカンパについては全額、友人たちの活動している団体「チェルノブイリ救援・中部」に送ろうと思います。よろしくお願いします。 「チェルノブイリ救援・中部」 http://www.chernobyl-chubu-jp.org/index.html ※注)情報は2011年5月22日時点のものです。 小冊子用に印刷したものをもとにアップしました。 小冊子はこちら]]>

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です